矢沢あい / 風になれ! 作者インタビュー&裏話です。
矢沢あい『風になれ!』
集英社文庫<コミック版>全1巻
りぼんマスコットコミックス全1巻
ぼんやりした毎日を送っていた女の子が部活そして恋に目覚めていく……身近なテーマを描いているだけに、多くの女子から共感を集めた作品。中学1年生と高校2年生という、ちょっと大人な男の子相手の恋愛にもドキドキさせられた。
矢沢あいprofile
1967年3月7日生まれ。1985年「りぼん」より『あの夏』でデビュー。91年『天使なんかじゃない』が大ヒットを記録。その後も『ご近所物語』『下弦の月』等、名作を世に送り出す。現在も『クッキー』にて『NANA』をドラマティックに連載中。
1987年はこんな時代でした!!
●事件、出来事……国鉄民営化・JRスタート。利根川教授にノーベル賞。地価の異常高騰。
●世相、話題……バブル。地上げ屋。通勤快足。ゴクミ。ボディコン。ハナキン。
●ヒット曲……『人生いろいろ』(島倉千代子)『TANGO NOIR』(中森明菜)『愚か者』(近藤真彦)『命くれない』(瀬川瑛子)
●流行語……「マルサ」「サラダ記念日」「朝シャン」
3月13日には現在連載中の『NANA?ナナ?』コミックス21巻が発売。その展開から目が離せないっていう人も多いのでは? 今までにも数々の名作を世に送り出してきた矢沢あいさんがついに登場!! まずは、矢沢さんにとって初の本格的な連載作品であり、初期作品のなかでは人気の高い作品でもある『風になれ!』についてお話をうかがいました。
毎日に退屈していた由紀は次第に“走ること”に夢中になっていく。そして、そんな由紀に新しい風を吹き込んでくれた秀樹先輩にも……。
ヒット作に恵まれない新人作家は必ずといっていいほど
“スポーツもの”を描かされたんです(笑)。主人公の由紀(ゆき)は中学1年生。テニス部に入部するも、なかなか上達しないせいでやる気が出ない。陸上部に入部し、目標に向かって楽しそうに頑張る親友・真弓(まゆみ)をうらやましく思う毎日。ある日、そんな彼女に陸上部の秀樹(ひでき)先輩が「陸上部に入れ」と声をかける。先輩の指導のもと、みるみる才能を伸ばしていく由紀。それと同時に、由紀は秀樹先輩に惹かれていく。
何の取り柄もないようなフワフワした女の子が、夢中になれるものに出会い少しずつ成長していく……陸上部を舞台に恋と青春を描いた『風になれ!』は矢沢さんの初期作品のなかでも人気の高い作品だ。しかし意外にも、矢沢さんにとって今作は「辛い思い出が詰まった作品」なんだとか!?
「そもそも『風になれ!』は自分の意思ではなく、担当編集さんから“スポーツものを描け”って言われて、半ば無理やり描かされたような作品なんですよ(笑)」
当時、まんが界では、デビュー後、なかなかヒット作に恵まれない新人作家はなぜか皆“スポーツもの”を描かされるという流れがあったみたいですよ、と笑う矢沢さん。
「私もまんまとその流れに乗ったわけですけど(笑)。最初は、私にそんなの描けるわけないじゃん!! って抵抗はしたんですよ。そうしたら、当時の担当編集さんに“それなら、オレが全て考えるから。どうにかして描け”とまで言われてしまって。ぶっちゃけてしまうと、『風になれ!』というタイトルもストーリーの設定も、ほとんど担当編集さんが考えたものなんですよ(笑)」
それは衝撃的な事実!! “スポーツもの”という幅広い選択肢のなかで“陸上”という競技を選んだのもその担当編集さんかと思いきや……そこだけは矢沢さんが自分で決めたんだとか。
「学生時代は短距離や高跳びが大好きで。部活には入っていなかったものの、得意なスポーツではあったんですよ。“走ることが楽しい”とか陸上が好きな女の子の感覚は理解できたので。“陸上なら描けるかも”って思ったんですけど。現実は……そんなに甘くなかったんですよね(笑)」
デビューからしばらく続いた辛く長い“冬の時代”。
この作品はまさにその渦中に描いたもの!!「実はね、デビューしてからしばらくは、私にとって“冬の時代”とも言える辛い時期が続いたんですよ。この連載を描いていた頃は、まさにその真っ只中で。
私が『りぼん』を読んでいた頃は、読者層も幅広くて、大人な雰囲気を持った作品がたくさん掲載されていたんですけど。ちょうど、私がデビューした頃から、読者の低年齢化がグングン進んで。子供向けの作品が求められるようになったんですよ。それこそ“矢沢のまんがはただでさえ大人っぽいから。おまえは中学生以上の女の子を主役にしちゃいけない”なんて言われたりしてね。その結果、自分の描きたいものと求められるものとの間でバランスが取れなくなってしまって。『りぼん』の作家としてどうあるべきか? 何を描いたらいいのか? わからなくなってパニックに陥ってしまったんですよね」
何を描いていいかわからなくなってしまったからこそ、担当編集さんに助けられながら描いた『風になれ!』。
「ある意味、言われるがままに描いてはみたんですけど……結局は、自分の中から出てきたものじゃないから上手く消化できなくって。
しかも、そこまでして描いた作品なのに、最初は読者の反応も思ったよりもかんばしくなくて。アンケート結果が出るたびに、担当編集さんに“オレのせいだ?!! 矢沢の才能が活かせるのはもっと大人のまんがかもしれない。わかった!! おまえには『ヤングユー』を紹介する”って泣かれたりして(笑)。私は私で“好きなものを描いて人気が取れないのならまだ納得できるけど、そうじゃないものを描いているうえに人気がないなんて……一体、私は何のためにまんがを描いているんだろう”って、もう絶望的な気持ちになってしまってね。この作品を読み返すと、その頃の辛い気持ちがよみがえってくるんですよ(笑)」
(取材・文/石井美輪)
http://web.archive.org/web/20121101135210/http://www.s-woman.net/mangaar/bn/0902_1/index.html
矢沢あいさんの初期の作品ですが、この他にも懐かしく甘酸っぱいせつないお話がたくさんあってほぼ全部読んでました。
矢沢あい初期作品集 1 風になれ! (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 や 32-4)
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矢沢あい初期作品集 2 バラードまでそばにいて (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 や 32-5)
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矢沢あい初期作品集 3 うすべにの嵐/エスケープ (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 や 32-6)
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