さくらももこ / 作者インタビュー&裏話です。
初期のちびまるは小ネタがいっぱいあって、それこそエッセイ集みたいでおもしろかったな~
さくらももこ『ちびまる子ちゃん』
集英社文庫<コミック版>
りぼんマスコットコミックス
小さいから「チビ丸」に女の子だから「子」をつけて、「ちびまる子ちゃん」と呼ばれていた小学3年生の“さくらももこ”。そんな「ちびまる子ちゃん」のおもしろさ満点の日常を描いていく。いい加減なところがまる子にそっくりな父・ヒロシや、まる子にだまされてばかりの祖父・友蔵(ともぞう)、丸尾(まるお)くんをはじめとするクラスメイトなど個性的すぎるキャラクターも多数登場する。4月15日に久々のコミックス最新刊である16巻が発売に。
さくらももこprofile
1965年5月8日静岡県清水市生まれ。1984年に「りぼん」にて『教えてやるんだありがたく思え!』でデビュー。1986年に連載スタートした『ちびまる子ちゃん』は、1989年講談社漫画賞を受賞。1990年からはテレビアニメも始まる。『コジコジ』『永沢君』などのまんが作品のほか、『もものかんづめ』『あのころ』などエッセイ作品も多数。『ちびまる子ちゃん』は現在も不定期連載されている。
1986年はこんな時代でした!!
●事件、出来事……長寿世界一記録を保持していた泉重千代が120歳で亡くなる。土井たか子が日本社会党委員長に就任。チェルノブイリ原発事故。スペースシャトル「チャレンジャー」爆発。三井物産マニラ支店長誘拐事件。
●話題……岡田有希子が飛び降り自殺。『ドラゴンクエスト』発売。ビートたけしとたけし軍団によるフライデー襲撃事件発生。ドラマ『男女7人夏物語』放送。
●ヒット曲……『仮面舞踏会』(少年隊)。『時の流れに身をまかせ』(テレサ・テン)。『CHA-CHA-CHA』(石井明美)。『じゃあね』(おニャン子クラブ)。『蝋人形の館』(聖飢魔II)。
大人から子供まで日本で知らない人はいない!? 国民的まんが『ちびまる子ちゃん』。作者であるさくらももこさんの小学校時代をモチーフとしたエッセイ風のこのマンガ、23年前のスタート時にはかなりセンセーショナルなものだった! さくらさんに連載開始当初について振り返ってもらいました。
自転車に乗る練習をしたまる子。傷だらけの脚にお風呂のお湯がしみる?! 誰もが「こんなことあった!」と思えるエピソードにプラスして、「傷の痛みを感じにくい湯船の入り方」というお役立ち情報まで知れてしまうのが『ちびまる子ちゃん』ならでは。そんなさくらさんがまんがを描く上でのモットーは「わかりやすく、愉快で明るくということ」。マイナスな心境を表現する“顔にタテ線”が頻繁に出てくることも話題になりました。
ナレーションを入れた方が面白いと思った。
自分の作品が斬新でありたいとも思った。『サザエさん』と並んで、日曜日18時台に放送されている定番アニメである『ちびまる子ちゃん』。その『ちびまる子ちゃん』が1986年に「りぼん」で連載が始まったまんがというと、意外に感じる人もいるかもしれない。
確かにさくらさんの作品は、王道的少女まんが雑誌「りぼん」の中では、作風も絵柄も異彩を放っていた。しかし、それだけに印象的であり、連載が始まるや否や多くの読者の心をひきつけた。
今でこそ、自身の経験をまんがに起こしたエッセイまんがは、まんがの一ジャンルとして君臨しているが、やはり『ちびまる子ちゃん』はその先駆け的作品。何事も先駆者というのは、困難を強いられるものだろうし、『ちびまる子ちゃん』の連載も、さくらさんと編集部の間で激しい話し合いがあった上でスタートされたのでは、と想像してしまう。
「それが『“ちびまる子ちゃん”っていうタイトルにしようと思います。私の小学校3年生の頃の話です』と言って、まる子の絵を見せて、すんなり決まりました。連載が始まってからも、ストーリー展開で編集の方ともめたことは特になかったと思います。ネームがボツったこともないですね。絵の件ではたまに言われました。わかりにくいとか。」
さくらさんがデビュー当時よりエッセイまんがを描き続けてきたからなのか、比較的すんなりと編集サイドにも受け入れられた『ちびまる子ちゃん』。
当時、『ちびまる子ちゃん』を読んで、明らかに他の連載まんがと違ったのは「文字が多い」ということ。登場人物が自分の心境を述べるモノローグは他のまんがでも見受けられたが、登場人物ではない人物??作者のさくらさんが状況を解説したり、ツッコミを入れたりするようなナレーションが入っているまんがは他に見ることがなかった。
「そこでナレーションを入れた方が面白いと思ったのです。自分の作品が斬新でありたいとも思っていました。」
さくらさんのその狙いは、見事に読者のハートをつかんだ。ナレーションだけでなく、コマのすみっこやコマの外にもちょこちょことつぶやきのような説明やセリフが書かれていたり。『ちびまる子ちゃん』は子供が大好きなおまけつきのお菓子のように、読むところがたっぷりあるお得なまんがだったのだ。
エピソードを創作する上で大切なのは
今まで生きてきて、考えてきたことのすべて。『ちびまる子ちゃん』を読んでいて、ふと疑問に思うのは、描かれているエピソードが実話なのか、創作なのかということ。現在までの話数を考えると、すべてが実話ではないのだろうが、「200円までと決められた遠足のおやつを買うコツ」や「防災訓練のせいで給食のプリンを食べ損ねた」ことなど、実際に経験した人でなければ絶対に出てこないようなエピソードも登場する。
「エピソードはわりとよくおぼえていますね。その時の心境とかも。まんがの中のセリフやモノローグはおぼえていることをもとに創作することもあるけど、完全に創作する場合も多いです。
創作するにあたり、当時の記憶よりも大切なのは、今まで生きてきて、考えてきたことのすべてです。経験の中で考えてきたことが、作品の中の様々なシチュエーションで活かされていると思います。」
小学校時代の自分と今の自分は全く別人かというとそうではない。どちらも「人生」という道筋で繋がっている同じ人間。大人になったさくらさんが創作したエピソードが『ちびまる子ちゃん』の世界にぴたりとはまるのは、やはりまる子がさくらさん本人をモチーフにした人物だから。
長い連載の中で、ネタに困ったことがあるかという問いに「それが特に困ったり煮詰まったことがないんです。幸いです。」という答えが返ってくるのも、『ちびまる子ちゃん』が現在生きているさくらさんとどこかで繋がっているからだと思われる。日常生活を営むように生み出されていく物語。だからこそ『ちびまる子ちゃん』は、世紀も時代も超えて、長く続く作品になったのだろう。
(取材・文/古川はる香)
その②
『ちびまる子ちゃん』には、多くの人は思いっきり笑わせられて、時に涙ぐまされたはず。その世界を深く知るには、主人公・まる子のモデルである「さくらももこ」、その人のことを知らなくては! 今回はさくらももこさん本人が、漫画家になるまでについて迫っていきます。
クラスメイトのかよちゃんに「将来は漫画家になりたい」という夢をうちあけるまる子。かよちゃんだけにうちあけたつもりの夢だったが、実は小学校2年生のときの学級文集にも書いていて、みんな知っていたというオチが(笑)。他のエッセイまんが等でも、「漫画家になりたい」という夢を人に話すなんて、恥ずかしくてできなかったというエピソードが見られる。
漫画家に「なれる」のではなく
とにかく「なりたい」と思っていた。『ちびまる子ちゃん』の中でも、まる子は絵を描くのが好きだというエピソードや漫画家にあこがれるエピソードが何度か登場する。さくらさんが漫画家という職業にあこがれだしたのが、まさにまる子の年代だったという。
「漫画家になりたいなぁとあこがれていたのは小学校2、3年生ごろからで、いつか投稿をしたいなと思ったのは中学ごろかな。
毎日のように漫画を読んでいたので、それらの漫画のすべてが、いつの間にかいろんな勉強になっていたと思います。雑誌では『りぼん』のほか、『マーガレット』も『少女コミック』も『少年ジャンプ』も『チャンピオン』も読んでいました。もちろん単行本もすごくいっぱい読みました。テレビやラジオからも学ぶことがいっぱいありました。具体名を挙げたらキリがないので控えます。」
やがて高校3年生になるころに本格的に投稿をスタートしたさくらさん。約1年の間、入賞は果たしながらもデビューまでには到達せず、ひたすら投稿を続けていた。
「『漫画家になれる』というより、とにかく『なりたい』という思いだけでした。でも、投稿からデビューまで、約1年ですから短いほうだと思います。」
そして短大在学中に見事「りぼん」にて漫画家デビューを飾る。デビュー当時から何か壮大な目標に向かっていたのだろうか。
「ずっと、一生漫画を描いてゆきたいというのが目標でした。それは今でも変わりません。」
さくらさんと言えば、『もものかんづめ』をはじめエッセイの著作も多数持ち、エッセイストとしても人気が高い。もともとエッセイ要素の強いまんがを描いていたさくらさんが、文章も書くというのはごく自然な流れだったのかもしれない。『ちびまる子ちゃん』時代のことを書いた『あのころ』等のエッセイもあるが、まんがと文章という違いはありつつも、そこに広がるのは紛れもないさくらワールド。さくらさん自身の中でまんがを生み出すことと、文章を生み出すことをどうやって棲み分けているのかと不思議に思ってしまう。
「まんがとエッセイに大きな違いはいろいろあります。絵で表現できることと文章で表現できることは質が違いますね。絵は、間(ま)とか空気感が表現しやすく、文章はリズムというかテンポのとり方と言葉の選択が重要です。どちらも苦労もありますが、楽しさもあります。私はどちらも好きです」
できあがったアニメ版『ちびまる子ちゃん』を
見たときには、うれしくて号泣しました。『ちびまる子ちゃん』がここまで幅広い層から愛される作品になったのは、アニメ化されたことが大きい。紙の上で連載されていたものが、動画になったため、すべてが同じとはいかないが、アニメ版の『ちびまる子ちゃん』はまんが版と、かなり近いテイストで再現されていることは、まんがの『ちびまる子ちゃん』ファンの多くが胸をなでおろしたはず。
「私の作品はアニメでの表現が難しそうだと思ったので、納得のゆく形で制作してもらわなくては、やらないほうが良いかもしれない……と慎重な気持ちでしたが、テレビ局の方やアニメ会社の方や、監督に恵まれ、できあがったアニメを見たときにはうれしくて号泣しました。」
これほどまでのヒットまんがとなれば、歴史の始まりから伝説的なエピソードを求めてしまうが、作者のさくらさんに、もしかして連載当初からどこかで『ちびまる子ちゃん』のヒットを予感していたのか尋ねると、「あるわけないじゃないですか(笑)」と即答が。
『ちびまる子ちゃん』連載当初にさくらさんが考えていたのは「とにかくできるだけ長く続けられれば……と思っていただけでした」というとても謙虚なもの。
「単行本の1巻が出たとき、初版がすぐに売り切れて、『どこの本屋に行ってもない!』と何人もの人から聞いたとき、少しは売れてるのかな? と思いました。」
1巻がいきなり売り切れるということは、連載初期から「このまんがは何かが違う!」と感じていた人が多かったという証拠。今、もう一度『ちびまる子ちゃん』を第1巻から読み返すと、懐かしい気持ちとともに、ここから始まる歴史の第一歩をしっかりと感じられるはず。
(取材・文/古川はる香)
その③
『ちびまる子ちゃん』を支え、独特のワールドを作り上げるのは、まる子をはじめとする個性の際立ったキャラクターたち。さらにはモモエちゃん、山本リンダ、城みちる、ブレイク前のビートたけしなど実在の人物がストーリーの中にさらり出てくるのも特徴のひとつ。多数の登場人物の中から、さくらさんのフェイバリットキャラも明らかに。
大好きな山口百恵のコンサートに行き、カニ缶と缶切りをプレゼントするまる子。まんが内に登場するなつかし系歌手の中には、山本リンダのように『ちびまる子ちゃん』効果で再ブレイクした人も!?
「連載当初は、読者もみんな知ってたんです。多少なつかしいな、というだけで。今の世代になると、いよいよわからないと思うので、あんまり出さないほうがいいかな、と思います。でもモモエちゃんなど今もみんな知っている人とかならいいかな、なんていうふうにも思います。」(さくらさん)
たまちゃんは、心のポエムを読みそうな感じが
さくらさんには匂ってきていた!?『ちびまる子ちゃん』の主人公は、ちびまる子ちゃんこと“さくらももこ”その人で間違いない。でも、まる子の家族やクラスメイトなどの登場人物も、ほとんどが助演女優賞、助演男優賞を獲れそうなほどキャラクターが立っている。しかも一般的なまんがに比べてキャラクターが多い。これだけ多数のキャラクターを、それぞれの性格や設定がかぶらないように登場させるのは、至難の業では!?
「設定はものすごくおおざっぱに設定を決めている場合もあれば、全然決めてない場合もあります」
ということは、かなりざっくばらんな設定で作品世界に生み出されたキャラクターたちが、自力でここまで成長してきたということなのか。
『ちびまる子ちゃん』の中では、キャラクターが急に成長することがある。例えばまる子の親友であるたまちゃんは、当初まる子の適当すぎる言動を温かく見守りつつ、時にはたしなめる作品内の良心とも言うべき存在。ところが次第にたまちゃんの中に「タミー」という乙女チックなキャラクターが誕生し、時々心のポエムを読むように!
「たまちゃんの心のポエムなどは、ふと思いついてやらせていると思います。ただ、やらせるまでには、そんなことをしそうな感じが、私の中には匂ってきていると思います」
確かにたまちゃんの変貌には、かなり驚かされたが、違和感は感じられなかった。ということはキャラクター自身が「私、こんな一面もあるんです」とさくらさんに訴えかけているということ? 「キャラクターが生き生きしている」とは、まんがに対する称賛のセリフのひとつだが、さくらさんの場合は「キャラクターが生きている」と言えるのかも!?
まる子は自分の分身でもあり、子供のようでもあり。
かわいくてしかたがない、大切な存在。まる子にふりまわされる祖父・友蔵(ともぞう)、お金持ちのお坊ちゃま・花輪(はなわ)くん、一見ネクラだが実はコアなお笑い好きである野口(のぐち)さん……。『ちびまる子ちゃん』ファンに好きなキャラクターを聞くと、かなり意見が分かれてしまうに違いない。それでは、作者であるさくらさんお気に入りのキャラクターはと言うと?
「それはやっぱりまる子です。かわいくてしかたないですよ(笑)。『ちびまる子ちゃん』というまんがは自分の代表作であり、まる子は自分の分身の部分もありますが、でも彼女自身のオリジナルの個性もあり、子供のようにも思える部分もあり、客観的にかわいいなァと思うこともあったりします。とにかく大切な存在です」
『ちびまる子ちゃん』という作品、そしてまる子というキャラクターに対しては、誰にも負けない愛情があるよう。おっちょこちょいでお調子者で、トラブルメーカーな一面もあるまる子が、どこか憎めず、みんなから愛される存在であるのは、作者のさくらさんが深い愛情を傾けているからなのかもしれない。
すでに連載100回も超えて、2007年からは新聞紙上での4コマまんがという新たな形式でも活躍している『ちびまる子ちゃん』。ストーリーまんがではないので、ネタが枯渇しない限り、半永久的に続けることが可能な作品ではある。けれども、もしかするとさくらさんの中では、まる子の世界にエンドマークをつける形が見えているのだろうか。それとも自身のライフワークのように、命尽きるそのときまで描き続けていく覚悟なのだろうか。
「描けるうちは描きたいと思います。終わるときのことは、考えてないこともありません。でもまだ先です」
(取材・文/古川はる香)
初期の方に収録されている、まる子の小学生とか中学生の番外編が凄く好きで何回も読んでいたなと。
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