池野恋 / ときめきトゥナイト 作者インタビュー&裏話です。
3部作だけど、どれも好きだな~
池野恋『ときめきトゥナイト』
ときめきトゥナイト 文庫 全16巻 完結セット (集英社文庫―コミック版)
- 作者: 池野恋
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/02/28
- メディア: 文庫
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集英社文庫<コミック版>全16巻
魔界人である蘭世が恋した人間の男の子・真壁俊は実は魔界の王子だった!? 蘭世のまっすぐな想いが胸に突き刺さる“第一部”。魔界人であることが世間にバレてしまい、姿を消す江藤家……長い時間を経て再会した鈴世となるみだが、また新たな“壁”が待っていた!? 衝撃の“第二部”。そして、蘭世と真壁君の子供・愛良は“魔女”として成長。幼い頃に出会った男の子・開陸(かいり)に運命を感じながら、その流れに翻弄される“第三部”。読み応えある名作!!
池野恋profile
1979年『HAPPY ENDものがたり』で「りぼん」よりデビュー。「幼い頃から絵を描くのが好きで。大学ノートに鉛筆で漫画を書いていた」という池野さん。「中学生のころ“大明神様”という占いをやったら“19歳で漫画家デビューする”って御告げが(笑)。“たかが占い”そう思いつつ“もしかしたら……”と19歳で初投稿。そしたら、本当にデビューしてしまったんです(笑)」『ときめきトゥナイト』以降も『ナースエンジェルりりかSOS』など大ヒット作を連発。現在『クッキーボックス』にて『ときめきミッドナイト』を執筆中。
1982年はこんな時代でした!!
●事件、出来事……500円硬貨発行。ホテルニュージャパン火災。エンジンの逆噴射により、日航機が羽田沖墜落。中曽根新内閣発足
●世相、話題……『笑っていいとも!』放送開始。CDが始めて発売される。『積木くずし』がベストセラーに。映画『E.T.』
●ヒット曲……『待つわ』(あみん)『赤いスイートピー』(松田聖子)『3年目の浮気』(ヒロシ&キーボー)
●ヒット商品……レッグウォーマー。CDプレーヤー
●流行語……「逆噴射」「ウッソー、ほんとー、かわいいー」「ほとんどビョーキ」
いつまでも色あせない世界観で今もなお多くの人々を魅了。幅広い年代のファンに支持され続けている『ときめきトゥナイト』。少女まんがの歴史に残る名作中の名作が生まれたその“秘密”を池野恋先生が語ってくれました。
「この連載を始める直前までOLの仕事をしていたんですよ」という池野さん。「会社には漫画を描いていることは伝えていたので。広報誌に四コマ漫画を描いたり、年賀状に似顔絵を描く、なんてこともしてました(笑)」『ときめきトゥナイト』は「本腰を入れて漫画一本の生活を始めた」記念すべき作品でもあるんだとか!!
連載と同時にアニメもスタート!!
不安とプレッシャーで夜も眠れなかった。江藤蘭世(えとうランゼ)は吸血鬼の父と狼女の母のもとに生まれた魔界人。正体を隠しながら人間界で暮らす彼女が恋をした!! 相手は中学のクラスメイトである真壁俊(まかべしゅん)。魔界人と人間という“許されない恋”の行方は…!?
連載がスタートすると同時に一気に人気に火がついた『ときめきトゥナイト』。
実はこの作品、連載と同時にアニメもスタート。ほぼ同時進行でストーリーが進んでいくという、当時としてはかなり斬新な新しいスタイルの漫画でもあったのだ!!
「新連載の打ち合わせで、当時の担当さんからいきなり“次の連載はアニメ化することになったから”と告げられたんですよ。私としてはもう目が点ですよね。“まだ内容すら固まっていないのに。この人は一体何をいっているのだろう?”と(笑)。そのときの私は、3回連載、5回連載と、短期連載を2本描いたことがあるだけの新人。新連載ってだけでも、まだまだ戸惑うことだらけなのに、そのうえアニメ化もついてきたんですから……ただただ動揺するばかり。何もわからないままに全てが進んでいく感じでしたね」
そのバタバタっぷりがよく表れていたのが新連載の“予告カット”。そこに描かれているのは……主人公らしき巻き毛のショートカットの女の子と、真壁くんらしき男の子、そして神父さんらしき男性の3人(笑)。
「いざ、フタをあけたら主人公は黒髪のロングの女の子。巻き毛の女の子も神父さんも出てきやしない。内容が固まっていないのがよくわかる絵ですよね(笑)」
プレッシャーと不安でヘトヘトになりながらスタートした新連載。しかし「プラスになったこともたくさんあるんですよ」と池野さんはいう。
「アニメの制作チームとの打ち合わせからアイディアが生まれたり(神谷パパのキャラもそこで生まれた)。アニメ側の提案からストーリーが広がったことも。実は、魔界の王子アロンはアニメチームが生んだキャラなんですよ。それを漫画にも登場させたんです。アロンの登場がヒントとなり“実は双子だったという設定にしよう”“もうひとりの王子は真壁俊にしよう”……って新しい展開が生まれていったんですよね。アニメに刺激されて『ときめきトゥナイト』の世界観がどんどん固まっていったんです」
アニメは途中からオリジナルストーリーへ。約1年間続き、原作とはまた違うラストを迎え放送を終了した。
「その1年間は無我夢中に描いていた感じだったので。アニメが終わったときは、正直、肩の力が抜けて気持ちが楽になったのを覚えています。“あ?、これから何も気にせず自由に描けるんだ”って。相当、気が張っていたんでしょうね(笑)」
アロンに命を狙われた真壁君に変身。身がわりになることで守ったことも!! “噛み付いたら変身する”という蘭世の能力。“くしゃみで元に戻る”のが池野作品らしい。
「呪文って案もあったんですけど。ちょっと普通でつまらないなと思って。簡単に元に戻れる方法はないかって考えたときに思いついたのがくしゃみ。くしゃみならコショウをかければすぐ出るなと(笑)」
『ときめきトゥナイト』の出発点は
主人公・蘭世ではなく、その父・江藤望里だった!?そもそも『ときめきトゥナイト』は“お父さんが吸血鬼”という設定からスタートした物語なんだとか。
「この作品を描く前に『ドラキュラ都へ行く』という映画を観たんです。その映画にインスパイアされて“こういうお父さんを描いてみたいなぁ”と思ったんですよね。それがきっかけとなり、まずは江藤望里(えとうモーリ)が生まれ、そこから“吸血鬼の父と娘という設定にしてみよう”と……どんどん世界が広がっていったんですよ」
幼い頃から「不思議な世界を描いた本を読んだり、映画を観たり……ファンタジックな世界が大好きだった」という池野さん。趣味で描き始めた頃の漫画にも「幽霊が出てきたり、死神が出てきたり……今作につながる要素がチラホラ出てくるんですよ」と笑う。
「漫画のなかでは、実際には出来ないことや言えないことも、キャラクター達が代わりに実現してくれる。それこそ、ファンタジーな世界も漫画のなかでは現実になる。それが漫画の面白いところであり、描く楽しみでもあるんですよね」
飲んだら人を夢中にさせる“ほれ薬”や、飛び込んだら行きたい場所に辿り着ける“想いヶ池”、呪文を唱えると犬になってしまう神谷曜子(笑)……ファンタジックなアイテムや不思議な能力がたくさん出てくるのもまた『ときめきトゥナイト』の面白いところ。
「そういうアイテムや能力を考えるのは楽しい作業でしたね。なかでも特に楽しかったのが“たくさんある地下室の扉にどんな秘密を隠そうか”考える作業。“一瞬にして海外に行けたらいいなぁ”という想いが『ジャルパックの扉』を生んだり、“若返れたらいいなぁ”という想いが『鏡の間』への扉を生んだり……主に自分の願望が扉に反映されることが多かったんですけどね(笑)」
また、神谷曜子を犬に変身させる『レナニヌイ(逆から読むと“犬になれ”)』夢の中に入り込める『スマシタイマヤジオトイヨチ(逆から読むと“ちょいとおじゃまいたします”)』……作品の中に出てくる呪文は全てが逆さ言葉。一度上から読み、次に下から読み、二度楽しめるのも面白かった。
「第一話で望里が傘に変身するシーンがあるんですけど。その呪文がなかなか思いつかなくて。そこで、なんとなく“ポテトチップスが食べたいなぁ”というそのときの気分をそのまま逆さ言葉にしてみたんですよ。そしたらピタリとハマりまして(笑)。そこから“他の呪文も逆さにしちゃえばいいや”と(笑)。一応、第二話からは、呪文に意味を持たせるようにはしたんですけどね」
次々と明かされる“秘密”の数々。『ときめきトゥナイト』というタイトルにも実はこんな“秘密”が隠されていた!?
「予告カット同様、タイトルもまた、内容がちゃんと固まってない状況で考えなきゃいけなかったんですよ。そのときは“お父さんが吸血鬼”というバクゼンとしたストーリーしか頭になかったので、タイトルも全く浮かんでこなくって。電話で担当さんに“どうしよう”と相談したんです。そのとき、担当さんが洋楽のランキングかなんかを見ていたみたいで。そのなかに“ときめきトゥナイト”っていう邦題の曲があったみたいなんですね。そこで“これどうですかね?”と提案されて“あ、いいですね”と(笑)」
「軽いノリで決めてしまった(笑)」というタイトル。しかし、このタイトルこそが「この作品のカラーの決め手になった」とか!!
「“トゥナイト”っていえば夜ですよね。その“夜”のイメージが魔界や魔界人という世界観につながっていったんですよ。ここで違う曲名をタイトルにしていたら、また違う作品が出来上がっていたかもしれないですね」
その②
蘭世が主役の“第一部”。蘭世の弟・鈴世(リンゼ)の恋人であるなるみが主役の“第二部”。蘭世と俊の娘・愛良(あいら)が主役の“第三部”と続いていき、歴史に残る長期連載となった『ときめきトゥナイト』。その連載期間はナント17年というから驚き!!読者から多くの共感を呼んだシーン。この後、人間になってしまった真壁君を追って蘭世も人間になる道を選択する。その真っ直ぐな愛に胸を打たれた読者多数!!
乙女チックな“王道少女マンガ”には憧れるけど
描くコトができないんですよ。どうにもこうにも照れちゃって(笑)。
『ときめきトゥナイト』を読んだ女の子が必ずときめいていたのが“真壁君”。ぶっきらぼうで冷たいんだけど優しい……今でも彼を“理想の男”に挙げる読者は多い!!
「“自分が蘭世だったらどういう男の子に惹かれるんだろう?”という視点で描いたのが真壁俊。その結果、こんな理想的な男の子に仕上がりました」
そんな真壁君をひたむきに想い続ける蘭世。優しくて、真っ直ぐで、凛とした強さも持っている……そんな彼女の姿に胸を打たれ、憧れる女の子も多かった!!
「連載中は、読者の方々から“ああいう女の子になりたい”っていうお手紙をたくさんいただいたんですよ。それを読み、自分の作品がすごい影響力を持っていることを思い知りまして。“これは責任重大だな”と。“滅多なことはかけないな”と痛感したのを覚えてますね(笑)」
ふたりの恋が成就しそうになるたびに襲い掛かるトラブルの数々……なかなか上手くいかない“障害だらけの恋”。そして“運命”に“前世”……“乙女心”をギュっとつかむ要素が満載。それだけでなく、思わずふきだしてしまう“笑い”の要素も入っているのがこの作品のスゴイところ!! 胸がキューンとなるロマンティックなシーンで読者を酔わせたと思いきや……次のコマではオトして笑わす(笑)。そんな絶妙な“ラブコメ”具合もまた『ときめきトゥナイト』の魅力のひとつだ。
「この頃は、王道のロマンティックな“ザ・少女漫画”が主流だったんですよね。私もそういう情緒ある世界に憧れては“描けるものなら描きたい”そう思っていたんですけど……どうも、照れちゃってダメなんですよねぇ(笑)。ついついギャグで崩してしまう自分がいるんですよ」
デビュー作品から「コメディ色が強かった」という池野作品。一度、王道のロマンティックな少女マンガにトライしたことはあるものの「担当さんに思い切り“つまらない”と突き返されまして。そこで、人には“向き”“不向き”があることを学んだ」とか(笑)。
「そこから、自分のなかで“純粋な恋愛物は苦手だ”という気持ちが芽生え“ギャグ&コメディこそが自分の持ち味なのかな”という思いが大きくなっていった。
『ときめきトゥナイト』も自分的にはコメディのつもりで書き続けていたんですよ。それだけに、驚いたのが“人間になった真壁君が蘭世に別れを告げたとき”の読者の反応。
ゆりえが蘭世に“好きならそのままでいいのよ”っていうシーンがあるんですけど“あのシーンに共感した”“勇気づけられた”っていう声が殺到したんです。“こんな私だけど、恋愛で響くものが描けたんだ”って。あのときはスゴク嬉しかったですね」
愛良が主人公の第三部。相変わらずおちゃめでありつつも母親の器の大きさを感じさせる蘭世、ぶっきらぼうでありつつも娘には甘い真壁君(笑)。ここでは“親”になった蘭世と真壁君に出会うことができる。
第二部が始まると同時に
読者からブーイングの嵐が……あれは辛かった(涙)。産休以外は休みナシ!! 原稿を落としたことも一度もナシ!!「最初はこんなに長く続くとは思わなかったけど、楽しみながら描き続けることができた」という17年間。そのなかで、池野さんが唯一「辛かった」というのが第二部がスタートしたときの読者の反応。
「私的にも、蘭世と真壁君の恋が成就したところで終わりにするつもりだったんですよ。でも、その直後に連載が続くことが決まり……ふたりの“それから”を描こうと思えば描けたんですけど。もう出し尽くした感もあったので。そこから先は読者の方々の想像にお任せして、新たなスタートを切ろうと」
そこから“第二部”がスタート。「最初は鈴世を主役にしようと思ったんですけど。男の子だから、読者が感情移入しにくいんじゃないかと」主人公は鈴世の恋人であるなるみちゃんに決定した。
「連載開始と同時に“蘭世じゃなきゃ『ときめきトゥナイト』じゃない!!”“なるみが主人公なんて認めない。もう描かないで!!”……そんな批判的な意見が続々と届いたんですよ。そういう意見が届く一方で、第二部から読み始めた読者の方々からは“面白いです”って意見が届いたり……その間で葛藤する日々。あの時期は苦しかったですね」
最終的には「さすが!」の池野ワールドに読者も納得。第二部も好評のうちに終了。そして、連載は“第三部”へと続いていく。
「第二部を描いてる間もずっと“蘭世と真壁君のその後が読みたい”って声が届き続けていたので。“じゃあ、娘を出してみよう”と。第三部では、ふたりの娘である愛良を主人公にしたんです」
17年間という長い連載の間、作品を描くうえで変わらず大事にしてきたことがある。
「『ときめきトゥナイト』って本当の悪人が出てこないんですよ。それは、王道の少女まんがに徹しきれないのと同じで。何か照れてしまって、悪に徹しきれない自分がいるのもひとつの理由ではあるんですけど(笑)。それとは別に、この作品を読むことで“みんなが優しい気持ちになってくれたら”“仲良くしたいと思ってくれたら”……そんな思いがずっと自分のなかにあったんですよね。それを意識して描き始めたわけではないんですけどね。描いてくうちにそういう気持ちが強くなっていったのかな」
最近は「歯医者で単行本を読んだ娘が本屋で文庫を買ってきた」「お母さんが持っていた単行本を読んだ」なんて「親子で楽しんでいる」という読者が続出。母から子へと読み継がれる……世代を超えた名作となった『ときめきトゥナイト』。
「この作品が親子の会話のツールになっている……それってすごく嬉しいことですよね。我が家は息子ふたりで女の子がいないので、感動を覚えるのと同時に“うらやましいな”と思うコトも。うちの息子はまったくもって興味を示してくれませんから(笑)」
この他にも続編や関連の漫画が沢山出てます。
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ときめきトゥナイト 真壁俊の事情 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
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全部読みたいな!!コミックスだと30巻だけど、新装版だと12巻です。
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