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【集英社・少女まんがアーカイブ】きら / まっすぐにいこう 作者インタビュー&裏話

まっすぐにいこう。 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

きら / まっすぐにいこう 作者インタビュー&裏話です。

 

きら『まっすぐにいこう。』 

まっすぐにいこう。 全15巻セット (集英社文庫―コミック版)

まっすぐにいこう。 全15巻セット (集英社文庫―コミック版)

 

 飼い主達がおりなす人間模様を、飼い犬目線で描いた人気作品。笑いあり、涙あり、考えさせられる場面あり……様々なエピソードが収録されているが、共通しているのは“読み終わった後、心がほっこりあたたかくなる”こと。優しい気持ちになれる作品。

 

きらprofile

12月31日生まれ。東京都出身。91年『ザ マーガレット』にて『まっすぐにいこう。』でデビュー。代表作に『シンクロオンチ!』『GENJI(源氏物語)』『パティスリーMON』など。現在『YOU』等で活躍中。『まっすぐにいこう。』は『コーラス』で不定期連載中。

 

1993年はこんな時代でした!!
●事件・出来事……Jリーグ開幕、レインボーブリッジ開通、逸見政孝がガンで死去、皇太子様と雅子様がご結婚
●流行……ナタデココ、クレヨンしんちゃんブーム、コギャルやブルセラなど女子高生が話題に、ダチョウ倶楽部の「聞いてないよ?」が流行
●ヒット曲……夏の日の1993(class)、僕たちの失敗(森田童子)、慟哭(工藤静香)、負けないで(ZARD)、愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない(B’z)

“飼い主の恋愛を飼い犬目線で描く”という、斬新かつほっこりとした世界観で多くの読者を魅了。この『まっすぐにいこう。』で一躍人気まんが家の仲間入りを果たしたきらさん。実はこの作品こそが、きらさんのデビュー作だってこと、みなさん知っていましたか!?

『まっすぐにいこう。』の第1作目で、記念すべきデビュー作がコレ!! 「絵柄が今と全く違うっ。全てが稚拙で恥ずかしいです(笑)」(きらさん)

読み切りのデビュー作が……まさか8年に渡る
長期連載になるなんて!! 思ってもみなかった。

 若月(わかつき)家で飼われている雑種犬のマメタロウは、飼い主である郁(いく)ちゃんのことが大好き。しかし、その大好きな郁ちゃんには好きな男の子がいるようで……。郁ちゃんとその彼・秋吉(あきよし)君の恋愛に愛犬マメが大奮闘っ。

 

 飼い主の恋愛を犬目線で描くという新しいスタイル、そして、心がポッとあたたかくなるエピソードが話題に。あっという間に大人気連載になった『まっすぐにいこう。』。

 

「実は、この作品は私のデビュー作でもあるんですよ」

 

 マメと郁のストーリーが初めて掲載されたのは『ザ マーガレット』。もちろん、最初は連載になる予定などなく、ただの読み切り短編だったんだとか。

 

「その作品がどうやら好評だったみたいで。“じゃあもう一回読み切りを”って同じ設定でもう一作描くことになって。そこから『ザ マーガレット』→『デラックス マーガレット』→『別冊マーガレット』と場所を移しながら、シリーズ読み切りみたいなカタチで7?8本の短編を書いたんです。その後に『別マ』で連載がスタートすることになったんですよね」

 

 着実にファンを増やし、その人気が評価されての本連載!! それだけに、決まったときは大喜びしたのかと思いきや……「それが、自分的には“なんで?”って感じで。若干、抵抗めいた発言をしたことを今さっき思い出しました(笑)」と、きらさん。

 

「デビューしたばかりで“いろんな作品を描いてみたい”って思っているときだったので。“なんでまた同じ設定で!?”って、つまらなく思ってしまったんですよねぇ。“こういうのも、ああいうのも描きたいんですけど”って案を出しては“それはこの作品で人気をつかんでから描いてみようか”と、担当さんから説得されて渋々うなずく、みたいな(笑)。連載決定の裏にある評価だったり、編集部の有難い意向だったり、そういうものを一切理解していなかったんですよね」

 

 当時を振り返り「若さゆえって感じですよねぇ。本当、恥ずかしい!」と笑う。実は“飼い主の恋愛を犬目線で描く”という設定も、きらさんいわく「当時の私の青クサい反抗心から生まれたもの」なんだとか!?

 

「デビューは決まっているものの、まだ誌面を飾れていない新人作家達が、ネームを持ち寄り競い合い、そこで勝ち残った人の作品だけが掲載される“新人枠”というものがまんが雑誌にはあるんですけど。当時は私もそこを狙ってネームを提出していたんですよね。でも、これが気持ちいいくらいに通らない、通らない(笑)。

それもそのはず、そのとき私が描いていたのって“SFまんが”や“ファンタジーまんが”寄りのネームばかりだったんですよ。ちょうど、そういうまんがを好んで読んでいる時期で。そこから思い切り影響を受けていたんですよねぇ。描けるわけないのに(笑)。担当さんも“いい加減にしろ”と思ったんでしょうね。ある日“女の子が主人公の学園恋愛モノを描いてくださいよ”と真顔でお願いされてしまったんですよ(笑)。

 でも、当時の私は反抗期というか、ひねくれてるというか、生意気盛りというか……担当さんのアドバイスを素直に受け入れることができなくて。“犬を飼っていることだし、だったら、犬目線で描いてみるか”って。“犬語りでストーリーが進む”という、ある意味ファンタジックな要素をねじこんでみた、というわけなんです(笑)」

 

今作を描き始めた頃はリアル高校生!!
自分の学園生活がまんがのネタになることも。

『まっすぐにいこう。』を描き始めた頃のきらさんは高校生!! リアルに高校生活を送っていたきらさんにとって“学園恋愛モノ”は描きやすいテーマだったハズ。

 

「というか“それしか描けなかった”が正しい答えかもしれないけど、“描きやすかった”のもまた事実。実際、郁や秋吉達が通っている高校は私の母校がモデルになっているんですよ。他にも、今作の中にはメガネとヒゲ面の先生がところどころに登場するんですけど。それも私の担任教師がモデルになっていたりして。高校生の恋愛もリアルにスグそばで感じていたから、難しいとは思わなかった。かといって、私がまんがのような恋愛をしていたかというと……それはまた別の話になるんですけどね(笑)」

 

 きらさんはどんな高校生だったのかたずねると「普通の高校生でしたよ。クラスメイトには、まんがを描いていることは秘密にしていましたしね」という答えが返ってきた。

 

「確か、高3のときにデビューが決まったと思うんですけど。進路を決める三者面談で、初めて担任の先生にデビューが決まっているコトを報告したんですよね。そしたら、実はその先生が手塚治虫先生の大ファンであることが発覚したりして。まんがに理解を示してくれたんですよ。そこから、締め切り前に学校を休んでもちょっと大目に見てくれたりして(笑)。スゴク応援してくれたんですよ。

 クラスメイトにまんがを描いていることを発表したのは卒業式の日。それも、その担任教師が“みんなに報告したいんだけど”って言ってくれて。私のクラスは女子クラスで普通に教室に『別マ』が置いてあるような環境だったので、報告したときは、みんなも“スゴイ!”と言ってくれて。恥ずかしかったけど、嬉しい気持ちにもなったのを覚えていますね」

(取材・文/石井美輪)

 

その②
作品中には、登場人物の恋愛や心の葛藤、フリスビー大会や犬ゾリ大会などのイベント、スイス旅行……様々なエピソードが登場。それはどのようにして生まれたのか? 『まっすぐにいこう。』の制作秘話をきらさんに聞いた!

郁(いく)のクラスメイトである小林(こばやし)は「はやっているし可愛いから」とハスキー犬を飼いだすが、成長するうちに手に負えなくなり、結局手放してしまうことに……きらさんが「『まっすぐにいこう。』を描く上で転機になった」と言うハスキー犬の問題を描いたエピソード。

マメのモデルは実家で飼っていた雑種犬のチャロ。
現在の愛犬もまた登場犬のモデルに。

 今作には主人公のマメタロウを始め、マメの恋人である紀州犬のはなこさん、ハスキー犬の源(げん)さん、ヨークシャテリアのセバスチャン、プードルの六花(ろっか)ちゃんにダックスフンドの空(そら)ちゃん……愛らしいナイスキャラな犬達がたくさん登場する。

 

「マメのモデルは実家で飼っていたチャロなんです。チャロはマメと同じで、ペットショップで買った雑種犬なんですよ。最近では、ペットショップで雑種犬なんてすっかり見かけなくなりましたけど(笑)」

 

 幼いころから、動物が大好きで「『ムツゴロウ王国』のTV番組も大好きだった」と言うきらさん。“マメタロウ”という名前は『ムツゴロウ王国』に実際にいた犬の名前から拝借したんだとか!!

 

「空ちゃんのモデルは、現在、飼っているダックスフンドの姫なんです。作品の中で、空ちゃんが皮膚病になるエピソードがあるんですけど、あれは、実際に姫が皮膚病にかかってしまったことがきっかけで生まれたエピソードなんですよ。

 まんがのネタは、自分のまわりにあるものや出来事から生まれることもあれば、取材に行った先で拾ってくることも。この作品は、北海道の犬ぞり大会やフリスビー大会、そしてスイス……いろんなところに取材旅行させてもらったので、その取材先で実際に経験したことが作品につながるケースが多かったですね。

 全てを想像で描くこともできるんだろうけど、私の場合は、取材や経験があったほうが描きやすいというか。自信を持って描けるんですよね(笑)。例えば、ある仕事のプロに話を聞くとしますよね。そこで“どの仕事でも同じだと思いますよ?”なんて一言を聞くと“じゃあ、いかようにも広げていいわけですね!”と安心する、みたいな(笑)。実際に話を聞いたり目にしたほうが、迷いなく描ける気がするんですよね」

 

『まっすぐにいこう。』のなかに自分の描きたいことを描ける。
そう思ったら、悶々とした気持ちがスッキリ晴れたんです。

 約8年という長期連載中「一度も辞めたいと思ったことはないんですよ」ときらさん。

 

「描いている間は“辛い”とか“苦しい”と思うこともなかったんですよ。デビューからそのまま連載がスタートして、『まっすぐにいこう。』以外の作品を描いたことがないだけに、比較対象が存在しなかったから。何が起きても“これが当たり前なんだろうな”で片付いてしまうというか。これが今だったらそうはいかないでしょうね(笑)。きっと途中で違う作品が描きたくなってしまうと思う。

 あ!! でも一度だけ、悶々とした時期がありました!! あれは確か連載当初だったと思うんですけど。学園恋愛モノしか描けない自分がイヤになってしまったんですよね。そうはいっても、当時はまだ高校生活しか知らないから、それ以外のことを描けっていわれても描けなかったと思うんですけど(笑)。そんなジレンマと負けん気から“恋愛以外のまんがも私は描けるんだぞ!!”っていうのを示したくなってしまったんですよね」

 

 そこで、きらさんが描いたのが、都会で飼われたハスキー犬の源さんが北海道にもらわれていくストーリー。これは、当時問題になっていた“流行として飼われたハスキー犬が捨てられて野犬になっている”というニュースから生まれたエピソードだった。

 

「社会的なことに感銘を受けるお年頃だったんですかね。犬好きとして“これは私がなんとかしなきゃ!!”って思ってしまったんですよね(笑)。でも、このエピソードを描いたおかげで“『まっすぐにいこう。』のなかでも、自分の描きたいことが描けるんだな”って思えるようになって。悶々としていた気持ちがスッキリ晴れたんですよ」

 

 そこから、現代のペット事情が抱える問題であったり、誰もが抱えているであろう人間関係の悩みに迫るものであったり、スイスで出会ったマリちゃんが実はゲイであるというエピソードの裏にはゲイ差別に対するきらさんの思いが隠れていたり……“学園恋愛モノ”という一言ではまとまらない強いメッセージ性を感じる作品に変化していく。それは読者の心を大きく揺り動かし、ときに考えさせられ、ときに涙を誘われた!!

 

「もちろん、それは当時の私が感じていたことであり、興味を持って描いていたことに間違いないんですけれど……ただ、いかんせん20代の頃に描いているので、今読むと、説教くさくて恥ずかしいっ。若いくせにえらそうに?って思ってしまうんですよ(笑)。今の私だったら、こんな直球投げたりしないっ。伝えたいメッセージはあくまで娯楽の下に隠し、サブリミナル効果じゃないけれど、“読み終わった後になんとなく残る”くらいのバランスで描く方がいいと思います」

 

『まっすぐにいこう。』は現在も『コーラス』で不定期に連載を継続中。続きを楽しみに待ち続けているファンはとても多い。

(取材・文/石井美輪)

 

少女まんがアーカイブ/s-woman.net/集英社 

 

高校生の時に書いていたなんて知らなかった!

途中ちょっとシリアスになりつつも、マメとはなこでふんわりまとまる感じ?

 

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