神尾葉子 / 花より男子 作者インタビュー&裏話です。
神尾葉子『花より男子』
花より男子 全20巻完結セット (完全版) (集英社ガールズコミックス)
- 作者: 神尾葉子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/01
- メディア: コミック
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貧乏家庭の娘ながら、「娘を玉の輿に」という母の願いで、セレブ高校に入学した牧野(まきの)つくし。学園を牛耳るF4に目をつけられ、イジメの対象となってしまうが、持ち前の根性と正義感で、彼らに敢然と立ち向かう。その強さに、やがてF4のリーダー・道明寺司(どうみょうじつかさ)は惹かれていくのだが、ふたりの恋には高いハードルが待ち受けていた!?
神尾葉子profile
6月29日生まれ、東京都出身。高校生のとき「別冊マーガレット」に投稿したのをきっかけに、1986年『はたちのままで待ってる』でデビュー。『花より男子』は1992年から2004年まで「マーガレット」で長期連載され、大ヒットを記録。「別冊マーガレット」の連載『キャットストリート』も昨年TVドラマに。現在、少年漫画誌「ジャンプスクエア」にて、女子プロレスラーを主人公にした『まつりスペシャル』を連載中。近々、「別冊マーガレット」でも連載を予定。
1992年はこんな時代でした!!
●事件・出来事 初の日本人宇宙飛行士・毛利衛宇宙へ。貴花田と宮沢りえ婚約、後に解消。佐川献金疑惑で金丸議員逮捕。バルセロナ五輪開催。
●流行 Gショック。エアジョーダン。MD。「今まで生きていた中で一番幸せです」「こけちゃいました」
●ヒット曲 君がいるだけで(米米CLUB)。晴れたらいいね(ドリカム)。涙のキッス(サザンオールスターズ)。
『マーガレット』で連載していた90年代当時、中学生・高校生は、み?んな『花男』に夢中だった! さらに05年のドラマ化で再びブームを巻き起こし、不動の人気を築いた『花男』。その中心的キャラクター『F4』はどうやって生まれたのか? 誕生秘話に大接近。
各々タイブが違うから、余計に花がある4人。ところで、なぜ道明寺はチョココロネヘアになったんでしょう!?
「美しい男の子を描き分けるのって、難しいんですよ。それで髪形で差をつけようと思ったんです。普通、王子様だとサラサラヘアなんですが、道明寺は少しギャグっぽい要素を入れようと思って。で、最初はドレッドヘアにしようと思っていたんですが、だんだんチョココロネみたいなってしまいました(笑)」
『あなたはシリアスな人だから』と言われ、
シリアスなまんがばかり描いていました。「この作品が私にとって初の連載で、最初はこんなに長くなる予定ではなかったんです。『人気がなければ6回で終わるから』と当時の担当編集者さんに言われて始めた記憶があります(笑)」
今や少女まんが史上、最強を誇る『花より男子』(以下、略して『花男』)。90年代の連載当時も女子中・高校生に大人気だったが、2005年、井上真央主演のドラマが大ヒットしたのをきっかけに、ブームが再燃。広い世代に愛される学園コメディの最高峰となった。でも、神尾さんが言うように、じつはとっても心もとないスタートだったのだ。
「デビュー当時の担当さんに、『あなたはシリアスな人だから、シリアスなまんがを描きなさい』『コメディはセンスが必要だから無理だ』って言われて、当時はずっとシリアスなものばかり描いていました。
でも、読者の反応はよくないし、女の子がワーッと号泣するような、同じような話しか描けなくて。それで行き詰まってしまって、『コメディを描いてみたい』と初めて自分から言ったんですね。
『じゃあ、試しに描いてみよう』ということになって、読み切りをひとつ描いたら、担当さんが『ミョーなテンポがあって、意外におもしろい』と。仕掛けたギャグというより、独特な間合いがおもしろいと言ってくれて、それで連載を持てることになったんです」
予定ではイケメン軍団は『F5』でした。
でも、あとひとり描けなくて(笑)。そこで神尾さんが考えたのは、今までの作風とはまったく違う華やかな作品。貧乏家庭で育った牧野つくしが、セレブが入学することで知られる英徳学園に入学。学校を牛耳るイケメン“F4”と対立する中で、真の愛と友情を築きあげていくストーリー。いったいこんな設定、どうして考えついたのだろうか!?
「連載を担当した編集さんが有名私立大出身者だったんですが、『付属校から上がってくるヤツは嫌なヤツが多い』という話をよくしていたんですよ(笑)。エスカレーター式で上がってくると、何のつまずきもないから人の痛みがわからないし、徒党を組んでいて、よそ者に対して冷たいとか。付属校の人、本当にごめんなさい(笑)。
で、ちょうどその頃、渋谷とかで“チーマー”というのが流行っていたんです。懐かしいですよね。いろいろ名前をつけたチームがあって、強いチームが渋谷を仕切っていたりしていて。
それで、まんがの設定を考えるとき、育ちのいいお坊っちゃんで、学園内を牛耳っているようなヤツらがいたら、おもしろいだろうなぁと考えた覚えがあります」
“F4”の名前の由来も、意外なところにあった!
「最初、イケメンチームの人数は5人の予定でした。いろいろな分野のお金持ちの男子5人。それでチーム名を考えていたとき、当時、先進五カ国蔵相会議というのがあって、これを『G5』って言っていたんですね。それで、じゃあ、『F5』なら、お金持ちっぽくていいかなと思ったんです」
それがなぜF4に!?
「突然、編集部の都合で連載が1回早まったんですよ。でも、何の準備もしていなくて、急いでカラーを描いたら、どうしてもひとり描けなかった(笑)。じゃあ、4人でいいかと思って、『F4』になりました。
ちゃんと設定を決めて描かないと、確かにあとで辻褄を合わせるのがたいへんなんですが、あまりガチガチに決めないで描いたほうが、読者も予想がつかないし、私自身もおもしろく描けたりする。それでわりと見切り発車的に連載を始めたんです」(取材・文/佐藤裕美)
その②
『花男』に共感できちゃうポイントは、なんと言っても、ヒロイン・つくしのいつも元気で前向きなところ。イジメにあっても雑草のような根性で立ち向かっていく。そんな彼女に思わず拍手!! って感じなのだが、神尾さん自身も、ずいぶんつくしには助けられたよう!?口ゲンカだけでなく、パンチやキックなど、肉体的にもタフなつくし。これって神尾さんのプロレス好きが関係してるの?
「直接は関係ないです。お話を作る上でアクションがあったほうが描きやすかったんですね。生意気な男の子の鼻っ柱を折る、というのを、口で言うだけでなく、目で見えるアクションで描いたほうがわかりやすいから、つくしはケンカが強い女の子になったんだと思います」
つくしを描くと、なぜかニュートラルな気持ちに。
つくしと一緒に連載を乗り切った感じです。ワガママ三昧のイケメン御曹司軍団・F4に対して、ヒロイン・つくしは、キャラも育った環境も正反対。正義感が強くて、曲がったことが大嫌い。お金の力で何でもねじ伏せようとするF4に、敢然と立ち向かう。その姿に勇気をもらった読者もいっぱいいたはずだ。
「まんがを描くとき、いつも思っているのは、読者が『こんなふうになりたい!』と思ってくれるような人間を主人公にしたいということ。でも、憧れだけじゃなくて、読者が感情移入できるような等身大の女の子。それでちょっと弱いところもあるけれど、前向きで強い女の子という、つくしのキャラクターが生まれました。
連載当初は、つくしのいじめにスポットを当てて描いていたんですが、読者からはたくさんのお手紙をいただいて、『私もいじめられていたけれど、明日から学校に行こうと思います』とか、『死のうと思っていたけれど、やめました』という感想をもらったんです。それはすごくうれしかったですね。
私自身、描いているとアップダウンがあるんですよ。気分が落ち込むようなこともありました。でも、つくしを描くことで、なぜかニュートラルになることができました。だからつくしと一緒に連載を乗り切った感があります。そういう不思議な作用を持った登場人物だったことは確かですね」
私とつくしはそんなに似てないと思う。
あえて共通点をあげるなら我慢強いところ!?ときは90年代初め。バブルがハジけ、日本中がどこか元気がなかった時代。そんな重たい空気をぶち破るように、バイタリティーあふれるつくしは誕生したのだった。
「当時は“メンタルまんが”というものが流行っていました。ヒロインはみんなナイーブでシリアスな感じだったし、内容も等身大のお話で、同級生の間で揺れ動く女心的なものが多かったと思います。『花男』みたいに、有り得ないような突飛な設定のものは、マーガレットではなかったかもしれません」
ところで、やっぱりつくしは、神尾さん自身のキャラクターと似ているのだろうか?
「よく聞かれるんですが、私はあんな強烈ではないと思います(笑)。つくしは曲がったことが嫌いだけれど、私自身はすごく曲がったところがあるし。もちろんキャラクターには少しずつ自分が入っていると思いますけれど……。あえて共通点をあげるとすれば我慢強いところ。我慢強くないと、37巻も続けられないですよね(笑)」
(取材・文/佐藤裕美)
その③
激しく対立していたつくしと司。でも、次第に惹かれあっていくふたり……。連載が進むにつれ、恋愛の要素が濃くなっていった『花男』。くっつきそうで、なかなかくっついてくれないふたりに、みんなハラハラ&ドキドキさせられっぱなしだった。類と司の間で、揺れるつくし。うーん、贅沢! ところで司がよくやる、恐るべき言い間違えの数々。彼の最大のウィークポイントであり、チャームポイントでもある。
「勉強しないでも、お金の力で何とでもなる、と思っている象徴的などら息子の感じを出したかったんですね。でも、今思うと、あの設定は本当にうまくいったと思います。あれで頭がよかったら本当に嫌な感じだけれど、あの発言のおかげで憎めないキャラになっていますから」
つくしと道明寺をくっつけようなんて、
まったく考えてなかったんです。お金の力とアイドル的人気で、学園を支配するF4のメンバー。道明寺司(どうみょうじつかさ)、花沢類(はなざわるい)、西門総二郎(にしかどそうじろう)、美作(みまさか)あきら……と、全員が大金持ちの子息で、容姿は麗しく、しかもワガママという典型的王子キャラ。貧乏育ちのつくしとはまったく反りが合わず、当初は激しく対立するが、やがてつくしと司の恋愛模様へと発展していく。
でも、じつは神尾さんは、「道明寺がF4のメインキャラとは、最初まったく考えていなかった」と言う。
「道明寺はいちばん意地悪なイジメっ子キャラという感じで、当初は花沢類をF4のメインキャラとして考えていたんですね」
それがどうして花沢類ではなく、道明寺に!?
「道明寺の方が花沢類より、描きやすかったということが大きいと思います。私にとって、花沢類は“素敵な男の子”ってこうなんだろうというファンタジーなんですよ。だからあえて何を考えているかわからないようなミステリアスな人間にしたんです。
花沢類をやった小栗旬くんも、『花沢類が何を考えてるかわからない』『役作りが難しい』って悩んでいたけれど、私自身も類をメインにまんがを動かすのがちょっと難しくなってしまったんです。
一方、それと対極にいるのが道明寺。彼は好きなもの、嫌いなものがハッキリしていて、考え方が透けて見えるようなタイプ。裏表もなくて、ある意味、人間的なんです。だから描きやすかった。
普段、私はあまり自分の作品を読み返したりしないんですけれど、一昨年、ドラマ化されたときに、読み返して思ったのは、やっぱりこのまんがは道明寺の成長物語なんだなぁということです。連載の途中から、どうしたら彼がヒーローになれるか、ということばかり考えるようになっていました」
つくしと司は『破れ鍋に綴じ蓋』。
ふたりはまさに運命の相手なんです。ただ読者人気はやっぱり花沢類に集中していたよう!?
「圧倒的に類でしたね。『私は類が好き。ただし、つくしに合ってるのは司』っていう意見がすごく多かった。その通りだと思います。連載中、何度も軌道修正して、つくしと類とのハッピーエンドにしようと思ったことがあったんです。
でも、どうしてもダメなんですよ。道明寺とつくしは引き合う力がすごく強くて、どうしてもそっちに戻っていってしまう。まさに『破れ鍋に綴じ蓋』みたいな感じで、ふたりはまさに運命の相手だったんだと思います」
もちろん、西門、美作への思い入れも深い。
「道明寺が子どもっぽいのに対して、西門と美作は大人の目線で、道明寺とつくしを諭すという立ち位置だったので、ふたりのもう少し深い部分を掘り下げたいとずっと思っていたんです。西門に関しては番外編を通して、それが描けて、わっと彼の世界が広がったので、すごくよかった。
美作は連載が終わってから、読み切りを描きました。美作が主役だとやっぱり地味なんですけれど(笑)、結構気に入っている作品です。彼の胸にうちを描く機会があって、本当によかったなと思います」
では、F4の中で、神尾さんが恋人にしたいと思うキャラは?
「残念ながら、キャラ萌えしないんですよ、私。『道明寺がカッコイイ!』『類、ステキ!』なんて思って描いたことがないので。ただ、ふかんで見て、誰がいいかなと考えると、やっぱり道明寺でしょうね。何か大切なところをきちんと持っている、いいヤツだったなと。よくここまで育ってくれたと思います。苦労して描いたから、ダメな子ほどかわいいという感じかもしれないけど(笑)」
(取材・文/佐藤裕美)
その④
12年間という長期連載の中で誕生した数々の名シーン&名キャラクター。そして、それらを生み出すために、たくさんのエネルギーを消耗するまんが家の先生たち。神尾さんはどんな風に、このジェットコースターのような日々を乗り切ったのだろう!?司の母親の陰謀によって、家族のために別れを決意するつくし。急に別れを告げられた司は激怒して、ふたりの別れは決定的! とも思えたが、別れを告げて、初めてつくしは自分の本当の気持ちに気がつく。何度も亀裂が入るふたりの仲だけれど、ここがいちばんシビレた……というファンも多い。
キャラクターの気持ちが吹き出すシーンは、
私も思いきって描くのでたいへんです。12年間に及ぶ長い連載の中で、結ばれそうになっては離れ、離れてはまたくっつく、劇的なドラマを展開するつくしと司。数ある名場面の中で、神尾先生自身が印象に残っているシーンを聞いてみると?
「印象深かったシーンは、節目節目にありますが、やっぱり読者のみなさんも選んでくださる雨の中の別れのシーンですね。キャラクターの気持ちがガッと吹き出すシーンは、私も思い切って描くんです。描いてしまったら、もう後戻りはできないので、そういう場面が印象に残っています。
別れた直後、つくしが道明寺のことを『好きだって思ってた』と初めて言葉にするシーンがあって、そこも力が入りました。21巻だったと思いますが、そこでやっと彼女は本当の自分の気持ちを言葉にするわけです。
それまではつくしの心は揺れていて、道明寺と類とどっちつかずだった。『好き』って、言葉にするまでは、それでもよかったんですが、一度、言葉にしてしまったら、『やっぱり好きじゃなかった』というわけにいかないですよね。それで私も『えいや!』という感じで描いたので、結構たいへんでした」
また、主役たち以外で好きなキャラクターは、意外にも(!?)三条桜子(さんじょうさくらこ)。初めは恋敵のつくしを蹴落とそうとするが、失敗して改心。やがてつくしをバックアップしてくれる親友となるという複雑な人物だ。
「私は悪役を悪役のまま、終わらせたくないんです。やっぱり人にはいい面と悪い面、表と裏があると思うので、いいところもかならず出してあげたいと思うんですよ。『こーゆー人っているよね』で終わらせるのではなくて、『じつは、この人にはこういうところもあるんだよ』っていう意外性を描いてこそ、まんが家冥利に尽きると思うんです。それがうまく描けたのが桜子だなと思います」
「まったくの悪人っていないと思うので」という神尾さんの他人に対する温かい視線こそ、この作品のポジティブな強さにつながっているのだろう。
父親のせいで、生ぬるいものより、
極端なものが好きになったのかも!?連載中、たいへんだったことは、「とにかく忙しかったこと!」と言う。
「最初の1年は隔週で1回30Pだったので、月に60P描いていたんです(笑)。それも2回に1回はカラーがつくという感じでした。途中から、こんなハードな状況では長く続けられないだろうということで、1回25Pに減ったんですね。まあ、それでも月に50Pですから、かなり多かったですね。
取材に行って風景をスケッチする……なんていう時間も、なかなかとれませんでした。それでカメラマンさんに風景写真を撮ってきてもらって、それを参考に描いたこともあったし、道明寺のお屋敷なんかに関しては、これはまったくの創作です。当時のアシスタントさんが、お屋敷を描くのが大好きな人だったんですよ(笑)。彼女に本当に助けてもらいました」
ただ、もともと気持ちの切り替えは上手な方で、大好きな本や映画でリフレッシュしていたそう。
「まんがだけの生活になっちゃうのがダメなんです。息抜きして、オンオフの切り替えはちゃんとしたいタイプ。今でもそうですが、インドア派なので、本を読んだり、映画を見たりすることが多いですね。当時はまだDVDではなくて、ビデオの時代だったので、いっぱいビデオを借りてきて、よく見ていました。
ホラーとか、サスペンスものとか、怖い映画が好ですね。『ゾンビ』とか大好きです(笑)。何でしょうね。父が『子どもだから、こういうのは見せちゃいけない』みたいなのがない人だったので、小さい頃からホラー映画にも連れて行ってくれたし、プロレスの流血試合とかも普通に見ていました(笑)。
逃げ場のないところで人がもがき苦しむというのが、子ども心にすごく強烈で、夢に出てきちゃったりして。そのせいで、生ぬるいものより、極端なものが好きになったのかもしれないです(笑)」(取材・文/佐藤裕美)
その⑤
かつては台湾でもドラマ化されて、大ヒット。さらに最近では、韓国でもテレビドラマ化されている『花男』。日本でも、たびたびドラマに映画にアニメに……と映像化され、そのたびに話題となってきた。きっとそれだけキャラクターにインパクトがあるということなのだろう。つくしも司も花沢類も、その魅力は永遠に不滅だ!昨年、発売されたコミックス最新刊(37巻)では、つくしと司の“その後”が描かれている。
「久し振りに描いたんですけれど、本当にたいへんでした。私にとって特別な作品なので、またそれを掘り起こすのがすごく難しかったですね。辻褄が合わなくなるとたいへんだから、『あ、こういうことも描いたっけ』って思い出したり、キャラクターたちの性格が絶対ブレないように、各々の特徴を思い出したり。なんだか昔の友達に会いに行くような感じでした」
二世代に渡って愛されているのを知って、
とってもうれしく思いました。ドラマ、映画、CD……など、これまでも様々な形でメディア展開されてきた『花男』。神尾さんはそれらの作品をどんな思いで受け止めているのだろう。
「いちばん最初が93年に出たCDブックで、声だけのものでした。これは他のものと違って、花沢類(はなざわるい)が主役なんですが、なんと花沢類の声をやっているのが木村拓哉さん! 今では伝説のCDとなっています(笑)。
それからドラマ化されたり、アニメ化されたり、舞台でミュージカル仕立てになったり。いろいろありましたが、いつも素敵な役者さんに演じていただいて、原作のイメージも大事に作っていただいたので、どれも思い出深いですね」
中でも、やっぱり2005年から放映されたテレビドラマのインパクトはとっても大きかった。井上真央ちゃんのつくし、松本潤の司、小栗旬の花沢類……。あまりにまんがの役柄ピッタリで、その後、映画化されるなど、大ヒットシリーズとなった。
「ドラマ化のお話がきたときは、連載が終わってから月日がたっていたので、『今ですか?』という感じはありましたけれど、スタッフの方が、『連載が全部終わってからドラマにしたいと思っていた』と言ってくださったんです。だからいいタイミングだったんでしょうね。
それに連載が終わってたから、私も素直に楽しめました。連載中に映像化されると、逆にそっちに作品が影響されてしまうような気がして、意外と冷静に見られないんです。でも、今回はすごく楽しく見ることができました。自分の作品を読み返すことがあまりないので、『あれ? こんなことあったっけ?』(笑)とか思いながら懐かしく見ましたね。松本潤くんの道明寺は本当に素敵だったなと思います。小栗旬くんも、役作りで苦労していたけれど、独特のけだるい雰囲気が類そのもので。さすがだなと思いました。井上真央ちゃんは、つくしそのまんまだと思いました。真央ちゃん自身も『花男』を読んでくださっていて、『つくしのイメージを壊さないように頑張ります』って言ってくださって、本当にうれしかったです。すごく頭のいい女優さんで素晴らしいなと思いました」
ドラマの影響で新たなファンが増えたことも大きな収穫だった。
「コンビニで小学生の男の子たちが、『おまえ、F4の名前、全部言えるか?』『道明寺だろ? それと……』なんて話しているのを聞きました(笑)。連載時のファンは、今30代半ばなんですが、その人たちがお母さんになって、娘さんが『花男』の完全版を持っているとか。そんな話を聞くと、二世代くらいに渡って、この作品が愛されているのがわかって、本当に有り難いことだなと思います」
『花男』の連載が終わったときには、
もぬけの殻のようになってしまいました。「まんが家になって、初めて楽しく描けたのがこの作品でした。
12年間、あっという間でした」と、神尾さんは当時を振り返る。
「私の場合、投稿作品がデビュー作みたいなものだったので、まんがの描き方もよくわからないまま、仕事していたんですよ。ボールペンで絵を描いたりしていたんです(笑)。お話の作り方もわからなかったし、本当にひどいものでした。担当さんに言われたことをそのままやるという感じで、まんが家としての自覚がようやく目覚めたのが、この作品だったんです。
だから本当に楽しかった。ペンが止まってしまうときも、彼らが何らかの動きをしてくれて、それで話がころがっていくという不思議なことが何回もありました。本当にキャラクターたちに助けられました」
それだけに連載が終わるときの感慨はひとしおだったよう。
「毎日、毎日、この人たちのことを考えていたのに、もう考えなくてもいいんだ、と思ったら、もうもぬけの殻のようになってしまって……。終わるとき、『泣くかな』と思ったら、涙は一滴も出なくて、そのときは実感がなかったんですけれど、逆に終わってから、12年間の重みみたいなものをじわじわと感じました」
連載は終わってしまったけれど、つくしもF4も、みんなの心の中にしっかりと刻み込まれている。それにつくしと司のこと、きっとこの先も、何か事件を起こして、私たちの前に姿を現わしてくれるに違いない。
ところで神尾さん、新作のご予定は!?
「近々、『別冊マーガレット』で連載を始める予定です。読んでる方につねにドキドキ感が伝わるような作品を届けたいと思っています。たぶん学園ものだと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください」
(取材・文/佐藤裕美)
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