紡木たく / ホットロード 当時の担当編集者インタビュー
好きな少女漫画のベスト3に入る漫画!
紡木たく『ホットロード』
完全版全3巻
集英社文庫<コミック版>全2巻
母親への反抗心から学校もサボりがちな和希は、暴走族の春山と出会い、つきあい始める。まるで死を覚悟したようにバイクを走らせる春山に、和希は不安を覚えるが、春山は暴走族同士の抗争に巻き込まれていく。カラーイラスト集付きの完全版が昨年発売に。
紡木たくprofile
1964年8月2日、神奈川県生まれ。1982年、17歳のとき、『待ち人』で別冊マーガレットよりデビュー。繊細なタッチで、少年少女の複雑な内面をリアルに描き、少女まんがに新しい世界を切り拓いた。『あの夏が海にいる』『やさしい手を、もってる』など人気作多数。
1986年はこんな時代でした!!
バブルの影響で景気は上昇。男女雇用機会均等法も施行。
●流行語 究極、おニャン子、ファミコン、プッツン
●事件 ビートたけしが『FRIDAY』に殴り込み
●ヒット商品 写ルンです
●ヒット曲 DESIRE(中森明菜)雪国(吉幾三)第一回目は熱い青春の息吹とせつなさが詰まった名作『ホットロード』。中学・高校生のときに夢中になった人も多いはず。暴走しがちだったあの頃の思い出に酔い知れよう!
ムチャはするけど、根はやさしくて甘えん坊の春山。この挑戦的なまなざしでみつめられたら、和希でなくても好きになっちゃうかも!? 男の子からの人気も高く、当時、街には春山もどきの髪形の男子があふれていた。
ヒリヒリとした青春の痛みが当時の思い出とともに甦る!80年代半ばに連載が始まり、若者の圧倒的支持を得た『ホットロード』。10代の揺れ動く感性を繊細に描き、鮮烈な印象を残した伝説的な作品だ。
主人公は母親とふたりで暮らす中学2年生の和希(かずき)。家庭でも学校でも自分の居場所がみつけられず、次第に孤立していく彼女は、あるとき、暴走族“ナイツ”の春山(はるやま)と出会う。同じ痛みを抱えたふたりは次第に惹かれあい、やがて孤独から逃れるように暴走していく……。
勝手な大人たちへの苛立ちや未来への不安感。何より「自分は愛されているのだろうか」というヒリヒリとした渇きが痛いほど伝わってくるこの作品は、当時、多くの若者たちの共感を呼び、青春のバイブルとなった。
また若者の気持ちを代弁する一方で、彼らの甘さや幼さがもたらす悲劇についてもリアルに描写。若者だけが正しいのではなくて、大人にも大人の事情がある。もっと世の中は多面的で、お互いが努力して歩みよろうとしなければ幸せにはなれないし、生きる意味は見出せないというメッセージを残してくれている。
深いテーマがあるから、大人になってから読むと、また違った感動が味わえるのだ。たとえば命の大切さを説く教師。かつては偽善的に感じた彼の言葉も、今読むと素直に受け入れられるし、元恋人に思いを寄せる和希の母親の気持ちも理解できる。そういう意味で、ただの暴走族まんがではなくて、普遍的な人間ドラマといえるかもしれない。
紡木たくさんは創作衝動が高く、表現意欲も強い人だった!?
ところで作者の紡木たくさんは当時から今日までインタビューなどの取材はいっさい受けないという姿勢を貫いてきたため、いまだにミステリアスな存在。ご本人の素顔はどんなだったのだろう? まさか元暴走族!? 当時の担当編集者・加藤潤氏に聞いてみた。
「作品では不良っぽい、はみだし者を多く描いてますが、本人からそういう印象を受けたことはないですね。奇矯な人でも癖のある人でもない。むしろ素顔は内気で繊細な印象。でも弱々しいわけじゃなくて、真面目な努力家で、一貫した考えを持った信念の人でした。作家としても創作衝動が高くて、つねに電圧の高い感じ。『ホットロード』もそうした強い表現意欲の中で誕生したんです」
ときは校内暴力などが吹き荒れ、反社会的な若者が問題視され始めた80年代。時代的にもタイムリーな作品だった。
「編集長にはひとこと言われた記憶があります。『暴走族を奨励するような作品について、キミはどう思うんだ?』というような疑問形で聞かれた覚えがある(笑)。多少リスキーな印象を持っていたんでしょう。
でも、紡木さんに『これは結局、どういう作品なのか』と確認したことがあったんです。そうしたら『これは家族の話だ』と。父親不在、親子間の問題、そういった家庭の崩壊がネガティブな形で出てくるかもしれないけれど、最終的には家族が再生していく話だ、というようなことを言っていたんですね。だから編集長が懸念するような方向に行くという心配は、僕にはまったくありませんでした」(つづく)。
その②
前回に続き、今週も『ホットロード』パート2。一重まぶたの春山も、あんまり笑わない和希も、当時の別冊マーガレットの中では異色だった。そんな主人公たちの誕生は、少女まんがの新しい時代の始まりでもあった。
最初はうまく愛を伝えられない和希と春山だが、孤独な魂が寄り添うように暮らし始めたふたりは、肉親の愛情よりも深い絆で結ばれていく。和希の「あたしハルヤマしかいない」という心の叫びが胸に突き刺さる。
一重まぶたの春山は、それまでの少女まんがにないヒーロー
ストーリーのインパクトだけでなく、紡木たく作品は絵柄も特徴的だった。あえて背景を書き込まない、空白の目立つ構図。ぽつねんと佇む若者たちの孤独感や刹那的な生き方が象徴的に写し出されていた。
いつも寂しげな和希(かずき)の表情にはハッとさせられたし、春山(はるやま)の挑戦的な瞳にはいつもドキドキさせられた。当時『ホットロード』のファンだった人の中には、和希のマネをしてオキシドールで髪を脱色したり、春山のような男の子を好きになったという人も多いはずだ。物語の中のヒーロー、ヒロインでありながら、読者はまるでクラスメートのような親近感をふたりに感じていた。
当時の担当編集者の加藤潤氏は言う。
「紡木さんの絵は、とても真に迫ろうとするところがある。ウソをつかないというか、リアルでしょう。春山にしてもそうですよね。こういう一重まぶたの日本人的な顔立ちの男の子って、それまでのまんがとは明らかに違います。
ひとつの場面を描くためによく取材もしていました。春山が事故を起こして入院する場面を描くときには、脳外科やリハビリセンターを取材したことを覚えています。たぶん暴走族のシーンも取材をして描いていたのではないでしょうか」
ファンタジーとリアルのギリギリの均衡が名作を生み出した!?
リアルな描写は登場人物のセリフにもよく現れていると言う。「かつて少女まんがは『ベルサイユのばら』に代表されるようなスーパーヒロインが出てくるまんがが多かった。そういうまんがは主人公が思っていることがみんなセリフになっているんです。ちょうどお芝居のように、心の中の言葉もセリフとして声に出ているんですね。
その後、くらもちふさこさんとか、等身大の主人公を描いたまんがが登場してきましたが、これらの作品では女の子の心の動きをリアルにとらえるために、口に出すセリフと心の中の声を分けて描くようになりました。現実は思ってることを全部口に出したりしないですからね。そういう意味で、現実に近付いたわけです。
これはまんががたどって来た、一つの流れだと思いますが、紡木さんはその流れを突き詰めていった人だと思いますね。
でも、少女まんがはもともと虚構の世界。ファンタジー性が魅力のひとつなわけです。ところが現実の世界には起承転結はありませんから、現実を追えば追うほど矛盾が生じてしまう。紡木さんはそのギリギリの均衡のところで描いていたのではないでしょうか。そのへんが彼女のすごさだと僕は思います」
そのテンションの高さが作品に緊張感をもたらし、同じようにギリギリのところで生きている若者たちの心に余計に響いたのかもしれない。
そしてそれは20年たっても決して色褪せていない。ページを開けば、青春時代ならではの目の眩むような一瞬のきらめきが、和希と春山と一緒によみがえってくる。そんな不朽の名作に魂を震わせてみよう!
能年玲奈さんと登坂広臣さん主演で映画化もされました。漫画が大好きな自分にとってはちょっとショックでしたが、映画は原作に忠実で、思っていたより良かったです。
ホットロード―十代の光と影 (SHUEISHA Girls Remix)
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